みてみて松阪

中心地観光

粋で独創的な豪商たちと偉大なる知性に出会う旅  松阪で“温故知新”をしっとり体験!もちろん絶品グルメも

◆松阪観光魅力発掘Web記事募集受賞作品(佳作)◆

 「商人の町」として、発展を遂げた松阪。こぞって江戸に店を開いた松阪商人や、全国からお伊勢参りに訪れる人たちが立ち寄ったことで膨大な情報が集まった松阪には、独自の文化や流行が沸き起こりました。規制が少なく、自由闊達な空気に溢れた松阪の町からは、一流の商人や学者、文化人などさまざまな偉人が生まれています。もちろん「世界の松阪牛」をはじめとする数々のグルメも見逃せない!歴史・人物・食と多彩な顔を持つ松阪を訪れ、その魅力に迫りました。

 やって来ました松阪へ!名古屋からは近鉄またはJRで1時間余り、大阪からでも近鉄を利用すれば1時間35分ほどで着きます。駅前のロータリーには大きな鈴のモニュメントが。これに限らず、この町には「鈴」とか「ベル」と名付けられた施設やモノがやたらと多い…。その理由はのちほど。

 最初に訪れたのは「豪商のまち松阪 観光交流センター」。パンフレットやパネル、モニター映像などで各種情報を発信しています。タッチパネルで好みのスポットを選んでオリジナルの観光マップを作れる「まちあるきアレンジメントサービス」は、ぜひ利用したいスグレモノ。特産品やお土産も販売されているので、帰りにもう一度立ち寄ってみて。

 かつて「マツサカを着る」といわれ、江戸っ子の間で大流行した「松阪木綿」。豪商のまち松阪観光交流センターのすぐ隣にある「松阪もめん手織りセンター」では、当時の雰囲気のまま機織り体験をすることができます。完成した作品は持ち帰りOK。反物をはじめ財布、ブックカバー、バッグなど、もめん製品も多数販売されています。

 松阪開府の祖である蒲生氏郷が、1588年に入城した松坂城。建造物は現存しておらず「松坂城跡」として、全国屈指の見事な造りと評される石垣が、往時の面影を今に伝えています。日本100名城、国指定史跡にもなっており、桜や藤が咲き誇る季節は、多くの人々で賑わう憩いの場ともなっています。


 「古事記伝」44巻を執筆し、18世紀最高の日本古典研究家と称される本居宣長。「本居宣長記念館」では、約16,000点の宣長に関する膨大な資料を収蔵しています。1730年に松阪に生まれ、医師として活躍するかたわら、古典の研究を続けた宣長は、疲れた時に書斎の鈴を鳴らし、その音色を楽しんだとか。この町のそこかしこで「鈴」にまつわるネーミングを目にするのは、市民の宣長に対する敬愛の念の深さゆえなのでしょうね。

 「もののあはれ」に代表される「日本人のこころ」を探求し続けた宣長。「何だか難しそう…」と感じるかもしれませんが、1階ロビーでは映像や3択のクイズ形式で、宣長の業績や人となりを楽しみながら理解できるようになっています。多数の著作を残し、約1万首の歌を詠み、自画像まで描いたという宣長は、あらゆる才能に満ち溢れた人でした。

 宣長が12歳から72歳で亡くなるまで過ごした「旧宅 鈴屋(すずのや)」。国の特別史跡に指定されており、主な著作は2階にある書斎で書かれたそうです。コロナ禍に揺れ、混沌として先の見えない現代に、もし宣長が生きていたら、どのような言葉を残すでしょうか。宣長を慕い、教えを請うた門人たちのように、松阪が生んだ“知の巨人”と200年余りの時空を超えて、対話してみたくなりました。

 松坂城を警備する任務に就いた紀州藩士とその家族の住居として建てられた「御城番屋敷」。武家長屋として現存するものとしては全国でも最大規模であり、国指定の重要文化財になっています。現在も子孫が生活しており、建物の維持管理がなされているほか、1戸を復原整備した上で一般公開しています。

 松阪もめんの着物を纏って散策する女性に出会いました。一直線に伸びた石畳の両側に続く緑の槇垣(まきがき)。そこで佇む姿はやはり絵になります。なお「松阪木綿レンタルセンター」「うつくしや 東村呉服店」で着物のレンタルが可能。洋服の上から簡単に着ることができ、着付けは約3分で完了!男性用着物も用意されています。

 さて、いい具合にお腹も減ったところで、お目当ての「洋食屋牛銀」に向かいます。極上松阪牛のすき焼きや網焼きの名店として知られる「牛銀本店」のすぐ横にあるこのお店。カツレツ、ハヤシライス、ハンバーグなど、昔なつかしい洋食メニューを楽しめます。もちろん、使用している肉は“松阪牛”ですよ。

 「よく出ます」という店員さんの言葉を聞いて、オーダーしたのが「かつ定食」(2,420円/税込)。デミグラスソースがたっぷりとかけられ、サクサクの衣に包まれた「かつ」の中身は当然松阪牛。薄めではありますが、とても柔らかくコクのある旨味を保っていて、揚げ物とは思えないほどのまろやかな食感!オススメメニューなのが納得できました。

 「洋食屋牛銀」から少し歩いたところにある「旧長谷川治郎兵衛家」は、国指定の重要文化財です。江戸時代の中期、安くて丈夫な上に、粋な縞柄(しまがら)デザインの松阪木綿は、江戸の民衆から支持されて大ブームに。「丹波屋」を屋号とする木綿商の長谷川家は、いち早く江戸の大伝馬町に出店し、長者番付に載るほどの大成功を収めました。

 大阪商人、近江商人と並んで三大商人と称された伊勢商人。その繁栄ぶりを今に伝える長谷川家の屋敷には、30以上の部屋と5棟の蔵、座敷、茶室、広大な日本庭園などがあります。主人は家族と松阪に留まり、茶道や和歌・俳句などを嗜んで教養を高めるとともに、千宗室や本居宣長と交流を深めて、彼らのパトロンにもなっていました。

 大都市だった江戸で、紙を扱う店を創業し、やがて「江戸一番の紙問屋」と讃えられた小津家。「旧小津清左衛門家」は、当時の邸宅を復原したもの。千両箱が軽く10個入るという「万両箱」など、その繁栄ぶりがうかがえる資料が満載です。また、炊事場には飯炊き用のかまどがたくさん。これはお伊勢参りに向かう旅人に、お粥やおむすびを無料で提供しもてなした施行(せぎょう)の名残です。

 名だたる豪商を輩出した松阪商人の中でも、ケタ違いに成功したのが三井高利。あの三井ですよ、ミツイ…。「現金掛け値なし」や、薄利多売、引札(チラシ)配布など、当時としては革新的な商法を産み出し、財閥から現在の三井グループまで連なる系譜の源となりました。この「ライオン(来遠)像」は、三越伊勢丹ホールディングスより寄贈されたもの。背にまたがると願いがかなうとの言い伝えられています

 そろそろスイーツが欲しくなる時間帯ということで、老舗の甘味処「山作」へ。北海道十勝産の小豆を使ったさわ餅をはじめ、もっちりした赤飯が入った各種弁当や手作りのあんみつ、寒天などが人気です。また、世界的に評価の高い作品を世に送り出した映画監督の小津安二郎が、松阪滞在時にこのお店に立ち寄ったという記録も残っています。

 見た目は普通のぜんざい。んっ、なぜかフレッシュミルクがついている。そう、こちらは「珈琲ぜんざい」(550円/税込)。コーヒーの中に小豆と白玉が入っています。甘味の強い通常のぜんざいと比べると、苦みが加わる分中和され、すっきりした後味になっています。ミルクを加えるといっそうまろやかになり、違った風味が楽しめるのも魅力ですね。

 地元の人々で賑わうお肉どころとして知られる「丸中本店」。自社牧場で大切に育てた松阪牛のすき焼き・ステーキ肉から、コロッケ、ミンチカツ、串カツなどの惣菜まで幅広く揃っています。松阪牛のお店と聞くと敷居が高いと感じるかもしれませんが、庶民的な雰囲気で、気軽に訪れることができますよ。

 注文を聞いてから揚げてくれる肉入りコロッケ(108円/税込)。松阪っ子にはおなじみの元祖ファーストフード。旨味を十分に感じられる松阪牛のミンチとホックホクじゃがいものハーモニーが絶妙!カロリーは少々気になりますが、今日はたくさん歩いたから、まっ、いっか。かまわず、かぶりついちゃいました。

 そして、憧れの霜降り松阪肉!もちろん、数多ある市内の専門店で食べてもよかったのですが、今回は奮発してお土産として購入し、世界に誇る「肉の芸術品」を親しい人たちと一緒に味わうことにしました。自宅ですき焼き鍋を囲んだら、松阪で「見て、聞いて、感じた」たくさんの思い出が脳裏をよぎることでしょう。ただ、今日行けなかった松阪の名店や名所はまだまだいっぱい。今度は家族や友達、そしてやっぱり大切な人と…。そのような思いにかられた松阪の旅でした。

応募者 三重県松阪市 山本 尚則