◆松阪観光魅力発掘Web記事募集受賞作品(佳作)◆
松阪市西部に位置する香肌峡は、道沿いをエメラルドグリーンの櫛田川が流れ、神秘的な山々や渓谷の秘境巡りも魅力のひとつです。また、香肌峡を通る国道166号線は、風光明媚なことからバイカーやサイクリストに人気の国道です。
その国道166号線からローカルな道に入ると、地元住民により大切にされている日本の原風景や、ディープなお店が点在しています。日本棚田百選に認定されている、松阪市飯南町深野地区の「だんだん田」といわれる棚田では、毎年、棚田まつりが開催され賑わいますが、普段は地元住民にしか会わない静かな絶景スポットです。
また、香肌峡には、約70もの橋が架かっているそうで、洪水時には橋面が水面下になる「沈下橋」も多く残っています。お気に入りの橋を探すのも楽しいかもしれません。
この地域を流れる櫛田川流域は、全国屈指の優良な木材の生産地であり、古くから製材品の生産が盛んな地域です。香肌峡には、多くの製材工場がありますが、私が子供だった頃に比べると製材工場の廃業が目立つようになりました。長期化する木材価格の下落や、安価な外国産材との競合、木材需要の減少が主な原因のようです。
そこで、少しまじめに、身近にある「木」のことを考えてみました。私たちの身近にある「木」のひとつとして、割り箸があります。
皆さんは、日本の割り箸事情をご存知ですか。割り箸の木目を、じっくり見たことがありますか。
松阪市飯高町栃谷にある波瀬割箸さんにお邪魔しました。事業主の水谷さんに、現在の割り箸事情や、国産割り箸と日本の森林保全の関係についてなど、様々なことを教えて頂きました。
<波瀬割箸さんについて>
昭和38年、個人商店水谷木工を開業され、平成16年に休業。原因は、林業不振による原材料入手難、過疎高齢化での人手不足、安価な外国産材に押されたことでした。しかし、平成26年に当時の事業主の息子さん(現在の事業主)が中心となり事業を再開。省力化を図り、より高品質な製品で市場開拓を行ってきました。そして、令和2年の現在、飲食店からの注文は激減し、先の見えない新型コロナウイルス感染症の大流行という逆境のさなかですが、常に新たなアイデアを求め、前向きに三重県産割箸の生産に励まれています。
我が国で利用される割り箸の約98%が輸入であり、そのほとんどが中国産となっています。価格の低い輸入割り箸に押されて、国産割り箸製造業者の多くは撤退・縮小を余儀なくされました。
波瀬割箸さんで生産されている割り箸は、全て、端材を有効利用したものです。木材を加工した際にできる端材を、町内の製材工場などから仕入れ、無駄の無いようひとつひとつ丁寧に作られています。また、私たちひとりひとりが意識して間伐材を利用することが日本の森林保全に繋がり、間伐材や木材加工時の端材から作られる割り箸を利用することは、エコな行動であるということを教えて頂きました。
お話をうかがった事業主の水谷さん。
熟練の技を持つ職人さん。
箸は口に直接触れるもの。なにより、小さい子供を持つ母親としては、三重県産の木材を使った安心・安全な割り箸は、とてもありがたいものです。
ところで皆さんは、割り箸の木目をじっくり見たことありますか。
波瀬割箸さんの割り箸は、木目がとても綺麗なのです。「柾引き」という、木の木目に沿って切る工程に、熟練の技が詰まっています。まっすぐ木目が出ていることで、割り箸を割る際に、気持ち良いほどスパッと割れます。是非、体感して頂きたいです。
奈良県との県境に近いこの地域。山深い場所というのはもちろんですが、人がとても魅力的で、包容力というのか、受容性というのか、「何かが違う」と、隣町に住む私は、その魅力に惹かれてきました。波瀬割箸さんの近くにある、現在休校中の「波瀬小学校」にお邪魔してみました。
スペインのバスク地方をイメージした造りで、林業の町にふさわしく スギ、ヒノキ材がふんだんに使われています。子供達に木のぬくもりの中で学ばせ、人間性豊かな人材を育てようと建てられた学校なのだそうです。校内はとてもコンパクト。「考える子、働く子、やさしい子、丈夫な子」が教育モットーだったそう。
地元のスギ・ヒノキがふんだんに使用されている。
時が止まったように、楽器も残されたまま。
この地域の人々の魅力。もしかすると、2つ以上の学年をひとつの学級に編成した「複式学級」で学んだというのも関係があるのでしょうか。上級生は下級生を思いやり助ける責任感を育み、下級生は上級生らが学ぶものや学ぶ姿勢を吸収し、それぞれが自主性をもって学校生活を送っていたのだろうと、そんな光景が目に浮かびました。
その他にも、見どころいっぱいの飯高町波瀬地区。ひとりの陶芸家が35年かけて制作した「虹の泉」や、県の有形文化財に指定されている「泰運寺の八角銅鐘」もあります。
虹の泉
開山口窄泰運寺の八角銅鐘
松阪の果て、奈良との県境。この地域に根付いている、人のぬくもりと木のぬくもりを体感しに、一度訪れてみてはいかがでしょうか。
応募者 三重県松阪市 野呂 育美