海も、川も、山もある。
県外から移住した私は、それが三重県の誇りだと思っている。
6月中旬、私はとっても疲れていた。
くだんの疫病による自粛が解けて、もっと解放感で満たされるかと思ったのに、やってきたのはとてつもない疲労感だった。
自粛生活ですっかりスローライフに慣れてしまった身体は、簡単にせわしない暮らしに戻ることができない。
久しぶりの早起きも、子どもの送り出しも、習い事の送迎も、何もかもが慌ただしくて、身も心も疲れ果てていた。
そんななか、お誘いを頂いたのが、飯高地域、香肌峡にある珍布峠(めずらしとうげ)のウォーキングだった。
まだまだ、人混みを避けたい状況が続く中、閉塞感はつきまとう。
大きな場所に出て、深呼吸できたらどんなに気持ちが晴れるだろう。
期待で胸が高鳴った。
道の駅「飯高駅」
松阪市の山間部、飯高町。現在の松阪市飯高町。
見渡す限り茶畑の緑が目に眩しく、思わずため息がこぼれる。
三重県が、お茶の一大産地だということは、全国的にはあまり知られていない。
車を路肩に停めてもらって、茶畑を見上げると、全身の緊張が緩んでいくような気がした。
茶畑を眺めながら国道166号線をすすんでいくと、見えてくるのは、道の駅「飯高駅」。
のんびりとした山間の町に、ひょっこり現れる。
野菜の直売所、たい焼き屋さん、パン屋さん、公園、温泉まである。充実。
こちらのテナントに入っている、八十八屋さんで出発の前に、おにぎりを買うことに。
八十八屋というおにぎりやさん
今回の目的は、和歌山街道のウォーキングコース。
運動不足の主婦ライターが歩くので、腹ごしらえは念入りにしたいところ。
遠足にはおにぎりと相場が決まっているのだもの。
ひとつ残らず、おいしそうで選べない。
有限会社 長井米生活農場の長井昭社長
どれにしようか悩んでいたら、ちょうど八十八屋の長井社長が来られたので、おにぎりについて、お話を聞いてみることに。
「最初は農家やで、お米を売ろうかな、と思ってたんやけど、周りから『せっかくやから食べてもらったらどうか』と言われて。ほんならおにぎりやな、と思って。」
丹精込めて作ったお米を、おいしく食べてほしい、そんな思いが顔を出して、こだわりのおにぎりが生まれた。
おにぎりに使うお米は、長井さんの田んぼで獲れた約10種類のお米をブレンドして炊いている。
「単品種はお米の癖が出過ぎる。お茶碗によそって食べるんやったらいいんやけど、おにぎりはブレンドがいちばん。」
とっとき焼きねぎ地みそ、と、松阪牛しぐれをチョイス
とっとき味噌というのは、飯高の特産品。
おにぎりに使われるとっとき味噌は、長井さんの田んぼで獲れたお米を使って作られている、というこだわり。
松阪牛しぐれも、松阪牛の元祖である飯南(飯高町の隣町)の牛をふんだんに使って炊き上げているのだとか。
「お時間はいただくけど、注文を受けてから手で握ります。これはこだわり!」
いずれは包みを紙製にしたいと考えている。長井さんの挑戦は続く。
こだわりのおにぎりを、隣接する芝生広場でいただく。
とっとき味噌は、ピリ辛でおにぎりにぴったりだ。牛しぐれは、お肉の存在感がしっかりとあって贅沢だった。言わずもがな、お米はとってもおいしかった。
お腹の底から、めきめき元気が湧いてくる。
いざ、ハイキングコースの珍布峠(めずらしとうげ)を目指す。
暮らしをみる
昔はパン工場だった「トミヤパン」さん。のどかな景色にしっくりなじんでいる
道の駅から山側の道に入ると、レトロなロゴがかわいい「トミヤパン」。
ここを左に。
ぶどうの木がある民家
えんとつみっけ。
これなんて言うんだろう。昔のインターフォンかな。
静かな住宅の間をまっすぐ進むと、ウォーキングコースにつながっている。
場所が変われば暮らしが変わる、暮らしが変われば景色が変わる。
その場所、その場所の営みを見るのが好きだ。
「珍布峠(めずらしとうげ)に行くんですか?」と声をかけてくれたおばあちゃん。
じゃがいもを収穫していた。
「写真を撮ってもいいですか?」と尋ねると、「こんなじゃがいも撮ってどうするの?」と照れくさそうに笑った。
「一輪車の青がとってもきれいだから。」と話すと、また笑っていた。
「行ってらっしゃい。」
柔らかな声を背中にかけてもらって、どんどん先へ進む。
いざ、ウォーキングコース
車はほとんど通らないので、安心して歩くことができる。
聞こえるのは、鳥の声と、葉っぱがこすれる音だけ。
ウォーキングコースに入ると、人家がなくなった。
視界に入るほとんどが、緑。
見上げると、木漏れ日がきれい。
湿度が高く、空気がしっとりとしているのだけれど、いやな感じがひとつもない。
むしろ、水分を含んだ風がやさしく身体を包むようで心地いい。
この日は夏日だったにもかかわらず、不快感はちっともなかった。
冷たいミストの中を歩いているような、清々しささえあった。
360度、全部がフォトジェニック。
右を見ても、左を見ても、上も下も全部が絵画みたいだった。
瞼に焼き付けたくなるような瞬間が、毎分毎秒訪れるので、カメラを持参するのがおすすめ。
杉林の中の一本道をどんどん進む。
ただただ静かで、静けさの中に時おり鳥の声が響く。鳥の声が過ぎるとまた静けさが訪れる。足元カサカサと音を立てたトカゲがほんの一瞬尻尾を見せて、枯葉の奥へと埋もれていった。
使い古された言葉だけれど、「自然の造形美」ってこういうことを言うのだ、と思った。コンクリートにびっしりと鮮やかな苔が生えていた。思わず触れてみたくなって手を添えると、手のひらにひんやりと冷気が伝わってくる。
珍布峠(めずらしとうげ)に足を踏み入れる
その昔、天照大神(あまてらすおおみかみ)と天児屋根命(あまのこやねのみこと)が、ここで出会ったとされている。
江戸時代には、伊勢神宮への参詣道としても使われた道だとか。
切り立った岩が猛々しい。少し畏怖(いふ)を感じて、ひるんでしまう。
珍布峠(めずらしとうげ)
ところが、一歩足を踏み入れると、その印象はがらりと変わった。
岩と岩に挟まれたその場所は、さっきよりさらに深い静けさをたたえて、静謐(せいひつ)で柔らかな空気がすうっと抜けていく。
岩肌に触れると、その見た目の荒々しさとは裏腹に、しっとりと手のひらが吸い付くようだった。
外側から見た雄々しい雰囲気とは違う、穏やかで包み込むような場所がそこにあった。
「何時間でも居られそう」
思わず口に出た。
櫛田川の上流
珍布峠(めずらしとうげ)に後ろ髪をひかれながら先へ進む。
お地蔵さんにご挨拶をして、二股に分かれた道を左へ。
舗装がなくなって獣道になっていく。
道幅がどんどん狭くなって、雑草だらけになったあたりで「道を間違えたのかもしれない」と本気で思った瞬間。まるで見透かされていたみたいに、景色が拓けた。
突然視界が明るくなったと思ったら、楽園かと思うような景色が広がっていて、思わず立ちすくむ。
櫛田川の上流だ。水の色が青い。
川のない町で育ったせいか、大きな川を見るといつも圧倒されてしまう。
緑の中を割くように流れる櫛田川の青がとってもきれい。
櫛田川を右手に臨みながら、復路につく。
親切な案内板があちこちにあるので安心。ショートコースをチョイス。
一級河川、清流櫛田川をお供にさらにてくてく。
櫛田川に見惚れながら歩いた。
ずっとおなじ川を見ていても飽きることがないのはなぜなんだろう。
まるで、おいしい水を飲んだみたいに
道の駅に戻って、ひと息ついて、飯高名物の「でんがら」というお菓子を頂いた。もっちりとした皮に、やさしい甘さのあんこが入っている。
ベンチに腰掛けて、でんがらをひとくち。
「ああ、疲れた」と、思わず口に出しそうになって、気がついた。
疲れていない。なんだか、すごく元気だ。
6月に入ってから、ずっと身体も頭も重たくて、息苦しかった。
疲れた体を引きずって、家事に仕事に息切れするような日々だった。
なのに、2時間歩いたあとの身体は、すっきりと軽く、頭の中も振ればカラカラと音が鳴るんじゃないかと思うほどさっぱりしていた。昨日まで、頭の中にぎゅうぎゅうに詰まっていると思っていたものは、なんだったんだろう。
おいしいおにぎりと、珍布峠(めずらしとうげ)、大きな櫛田川と、その周りに息づく人々の小さな暮らし。この日触れたすべてが、身体の真ん中を通って余計なものを洗い流してくれたみたいだった。
自分に足りないのは休息だと信じて疑わなかったけれど、思いもよらないかたちでエネルギーを取り戻せることを知った。
気を緩めることが難しいこの頃。
ほっとひと息つくのも、たっぷり寝るのももちろんいいけれど、大きな場所に出て、深呼吸してみるのもいいかもしれない。
枯れた体に水をもらうような、すくすくとした元気をきっともらえるから。
記者:ハネサエ.
ウォーキングコースには車もなく、道も歩きやすいので小学校低学年くらいから一緒に歩けそうでした。
近隣には、キャンプ場や宿泊施設もあるので、家族レジャーにもぴったり!
以下、飯南地域振興局の情報サイトより。
https://kahadakyo.com
◎つつじの里 荒滝キャンプ場
(本館での宿泊のほかに、コテージやテント泊も選べます)
所在地:三重県松阪市飯高町赤桶 1076-3
電話:0598-46-0166
HP:http://www.ma.mctv.ne.jp/~arataki/
◎わんわんパラダイス 森のホテルスメール
(わんちゃんと一緒に泊まれるホテルです。ドッグランもあります)
所在地:三重県松阪市飯高町森 2296-1
電話:0598-45-0003
HP:https://www.wanpara.jp/matsusaka/
◎グリーンライフ山林舎
(魚のつかみ取りや、陶芸教室や木工教室など、様々なアクティビティが楽しめます)
所在地:三重県松阪市飯高町波瀬 811
電話:0598-47-0326
HP:https://greenlife-sanrinsha.com/shukuhaku.htm
◎リバーサイド茶倉
(清流櫛田川沿いの宿泊施設。コテージ、バンガローキャンプサイトなどお好きな宿泊を選べます。)
所在地:三重県松阪市飯南町粥見 1084-1
電話:0598-32-3223
HP: https://chakra-village.jp/
◎高光館 ( こうみつかん )
(料理が自慢の、昔ながらの旅館です。鮎、猪肉料理が人気)
所在地:三重県松阪市飯南町粥見 3761-3
電話:0598-32-2240
◎i sierra(アイシエラ)
(清流櫛田川での、初心者ファミリー向けのカヌー体験です)
定 員:2名~8名、毎回一組限定
場 所:開始10分前に道の駅「飯高駅」に集合
三重県松阪市飯高町宮前177
料 金:6,800円/おひとり様 小学生4,800円
幼児(要、保護者と同乗)2,000円
連絡先:080‐3630‐4396
URL:http://i-sierra.com/
飯南地域振興局
HP:https://kahadakyo.com
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